2024年2月6日
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アングレーム国際漫画祭
今週も第 4 課の BD ( バンド・デシネ ) と漫画にまつわるテキストを読みました。女性、とくに女性の身体がどう描かれてきたかがテーマです ( ウ~ム、結構おもいテーマです )。
バルバレラ
そもそも 20 世紀前半には検閲があり、女性の体が描かれることがなかったそうです "...dans la première partie du XXe sièclecle...la censure interdit toute représentation réaliste... du corps féminin. "。
しかし1960 年代になると、バルバレラ Barbarella に代表されるような果敢で魅力的な女性が登場するようになったそうですが、女性蔑視がなくなるわけではなく Toutefois, cela ne signifie pas que la misogynie disparaisse de la bande dessinée. " 、むしろ男性読者に向けたステレオタイプ化した女性が、多く描かれていくようになっていったのだそうです… 。
アングレーム国際漫画祭
© T'en penses quoi ? Editions Asahi
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今週は、ミュエル・バルベリ Muriel Barbery の『優雅なハリネズミ l'élégance du hérisson 』です。
前回は、15歳の「私」が、重大な決意をどう遂行するか、その深い (?) 思索を述べたくだりでした。
そして章がかわり、場面は再び管理人室へ。管理人の「私」には親友がいます。家政婦をしているマニュエラです。「私」が管理している建物には、400平米はあろうかというアパルトマンがいくつも入っています。マニュエラはそのアパルトマンに住むアルテン家とドゥ・ブログリ家の掃除をし、その帰りがけに「私」の管理人室に寄ってくれるのです。
マニュエラは人が鼻をつまむような仕事をしています。でも彼女は、心もふるまいもとても高貴です・・・とそんな件でした。***
マニュエラはポルトガル出身。兄弟姉妹が13人もいて "...la fille de Faro (= Manuela ), née...après sept autres et avant six,..." 、小さい時から畑仕事にでかけ、若い年で結婚。夫と共にフランスにやってきました。周囲は彼女に“ポルトガル出身の家政婦"というレッテルを貼ります。でもマニュエラは気にかけません "...elle se rit des étiquettes..." 。
彼女の周囲には厚顔無恥というか、人間的に卑しいというか、そういう人が少くありません。工場街に住む近所の人たちや、親戚にそういう人たちはいます。しかし彼女を雇っている奥様たちもまた、おおいに品性に欠けていると言わざるをえません。なぜならマニュエラを徹底的に見下す態度をとるからです。そういう彼女らはとても下劣です " C'est une femme (= Manuela ) que la vulgarité n'atteint pas..., vulgarité des employeuses...qui s'adressent à elle comme à un chien croûtant de pelades " 。
ところがマニュエラ自身はそうしたことを気にかけている様子はありません。
私の管理人室に来てくれると、優雅にお手製の菓子をならべ、お茶を入れ、静かに語らうのです。彼女のおかげで管理人室ははなやかになり、ささやかなティータイムが高貴なうたげのようになるのです。
マニュエラが語ります。「パリエールさんの息子が ( どうした風の吹きまわしか ) “こんにちは" って挨拶したわ」と。「マルクスを読んでいるらしいわ」と私( 第一章冒頭をご参照あれ ) 。「マルクスって ? 」とマニュエラが聞きかえすので、「共産主義の生みの親よ」と返事をすると、「政治って、小金をもった人たちのおもちゃよね。しかも貸してくれないのよね " La politique...Un jouet pour les petits riches qu'ils ne prêtent à personne " 」と正論。
マニュエラは、当のパリエール家の息子がベッドの下にグラビア雑誌を隠していることを重々承知していますから " Les illustrés que les jeunes gens cachent sous leur matelas n'échappent pas à la sagacité de Manuela..." 、「じゃあ、いつもとはちょっと毛色の違う本を読んだのね」としめくくります。こんな風に、マニュエラととりとめのない話しをしながら過ごす時間は、何ものにも代えがたい一時です " Nous...devisons ...un moment de choses et d'autres,...Ces moments sont précieux " 。ですから、もしマニュエラが夢をかなえて故郷のポルトガルに帰ってしまったら、どんなにつらいことか・・・そう思わずにはいられないのでした。
次回は p25の " Quand cet été on a entendu aux informations que ... " からです。
© " L'élégance du hérisson ", Muriel Barbery , Editions Gallimard
2024年2月13日
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2017年セザール賞
受賞のドキュメンタリー
残念ながら日本非公開今週は第 5 課です。タイトルは『 Voir le monde autrement べつの視点から世界を見る』です。ドキュメンタリー映画についてのテキストでした。
カンヌ映画祭には、ドキュメンタリー映画というジャンルのための賞がもうけられています。また、セザール賞にもドキュメンタリー部門があります。テキストに載っていた " Tomorrow ( 仏題 : " Demain "、邦題 : 『TOMORROW パーマネントライフを探して』 ) " や、 " Merci, patron ! " はそのセザール賞をとった作品です。
ドキュメンタリー映画は、フィクションとは違い、現実をうつします。ですから環境破壊をテーマにした " Demain " はいろいろな現実を見せてくれます。でもその見せ方はとても前向きで肩の力が抜けています。大ヒットした所以かもしれません。
© T'en penses quoi ? Editions Asahi
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今週は『影泥棒 Le voleur d'ombres 』です。
前回は、「僕」がマルケスの影のせいで、"副作用 effets secondaires "を感じているところからでした。僕の気持ちを不安にさせるという副作用です。自分の体に他人の影がついてくるのは、決して安心できることではないのです。
だから僕は夜にお母さんがテレビドラマを見ているあいだに、屋根裏部屋に行って影と対決することに決めました。満月の夜には、明り窓から月の光が射しこむのです。* * * * *
小さいころは恐かった屋根裏部屋ですが、今では一番気持ちの落ちつく場所です "...au début le grenier me faisant un peu peur...(c'est) l'endroit où je suis vraiment au calme。ここにはダンボール箱やスーツケースが積まれています。古いアルバムもあります。お父さんとお母さんの結婚式の写真がありました。二人は教会の前で手をつないでいます。どうして二人は別れてしまったのか・・・少し考えてしまいました。
壊れたおもちゃもありました。分解した後、もう一度組み立てることができなかったおもちゃです。僕はあかり窓の前に来ました。月光がさして埃が宙にまっているのが見えます。僕の足元には、長い影が出ていました。僕はちょっと咳払いをして、それから勇気を奮いおこして、影にむかってこうはっきりと述べたのです " J'ai toussoté un peu, pris mon courage à deux mains et j'ai affirmé...。
「君は僕の影じゃない!」って。
すると、驚いたことに影がかすかな声でこう答えたのでした。
「知ってるよ」と。
「君はマルケスの影なんでしょ!」と念をおすと、「うん」とか細い声。聞けば、アルケスの影は、マルケスの影であることが辛かったのだそうです。マルケスは成長しても、中身が成長することはなく、ますます耐えがたくなっていったそうです。あげくの果てにアルケスの影は、他の影からからかわれる羽目に。「影は一生、一人の人の影だから、その人がかわってくれない限り、影の運命はよくならないんだ "...on est l'ombre d'une seule personne, et pour toujours. Il faudrait que cette personne change pour que votre sort s'améliore " 」とマルケスの影は嘆くのでした。
次回は、p56の " Avec Marquès, autant te dire que le future qui m'attend n'est pas des plus glorieux " からです。© " Le voleur d'ombres ", Marc LEVY, Edition Robert Laffont
2024年2月20日
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今週も第 5 課 の『 Voir le monde autrement べつの視点から世界を見る』です。ドキュメンタリー映画がテーマです。子供新聞の『 AÏLO アイロ 』という映画の紹介を読みました。
ラップランドには人間の数よりも多くのトナカイがいるそうです ...la région de la Laponie compte plus de rennes que d'êtres humains 。その数 19 万頭。
そのラップランドに AÏLO という名前のトナカイの赤ちゃんが生まれました。映画は、その赤ちゃんが厳しい自然のなかで成長していく様を描いています。厳寒のラップランドはマイナス 40 度にもなります。オオカミや、クズリ ( イタチ科 ) などトナカイを襲う生き物もたくさんいます "...dans la forêt, des carnivores rodent et chassent, comme les loups...les gloutons..." 。ですからそのせいで、トナカイは、生まれて 5 分で立ちあがり、つぎの 5 分で歩き、その次の 5 分で走ったり泳いだりするとも言われているのだそうです。生きのびるためです。 " Une légende raconte qu'à leur naissance chacun d'eux a cinq minutes pour se dresser sur ses pattes, cinq minutes pour apprendre à marcher, et cinq autres pour savoir courir et nager. C'est une question de vie... " 。
物語仕立てのこの映画は、トナカイを襲う動物もまた、生きていかねばならないことをきちんと描いています。その恐ろしい動物が、求愛のときにはじつに愉快な姿をみせてくれるそうです。
ラップランドの荘厳な森、湖、雪原で展開する『 AÏLO 』は、おさない AÏlO のオデュッセイアです。
© T'en penses quoi ? Editions Asahi
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今週は、ミュエル・バルベリ Muriel Barbery の『優雅なハリネズミ l'élégance du hérisson 』です。
前回は、「私」にとってマニュエラがいかに大切な人であるかという話しでした。
マニュエラは、彼女の雇い主が見下すような横柄な態度をとっても、わりきっていますし、他人にポルトガル出身の家政婦だとレッテルをはられても、意に介しません。
そんな彼女が、私の管理人室にやってきて、心づくしのお茶菓子を並べ、お茶を用意してくれると、たちまちにわたしの部屋は優雅なサロンに変身しすてきな一時が流れるのです。* * * *
ところで、5階のアパルトマンには著名な美食評論家のアルタン氏が住んでいます。
氏は、「私」のことを薄暗い洞窟の住人と考えているようです。目の前に見えているのは管理人室であって洞窟ではないのに、彼は洞窟であると決めてかかっているのです。見るべきものを見ないという点では、評論を書くときも同様です。たった一つのトマトについて、氏は見ることもさわることもなく、数ページを割いて滔々と評論します Écrire sur une tomate des pages à la narration éblouissante...sans jamais voir ni saisir la tomate...。まさしく舌をまく芸当と言わざるをえません。
そのアルタン氏が管理人室前にやってきてブザーをならしました ...il (= M.Arthens ) se tient sur le seuil de mon logis,...sonne à la loge "。氏は捕食者のような人です。他者を捕らえて食らいつくことにかけては、一切の忍耐をもちあわせていません。ですから、偏屈者の「私」は、わざと部屋ばきをずるずるとひきずってドアまでゆっくり歩いていきます。トアも鼻先が出るくらいしか開けません。
「今日、荷物が届くことになっているので、着き次第、私の所へ持ってきてくれませんかね」。こう頼みごとをするアルタン氏。
今日のアルタン氏は、ひらひらのリボンのような蝶ネクタイをつけています。柄は水玉 " Cet après-midi, M.Arthens porte une grande lavallière à pois..." 。ライオンのたてがみのようなヘアスタイルに、このひらひらは似合いません。私は思わずルグランダンのことを思いだして、笑いをこらえたのでした。 ( さて、ルグランダンとは誰でしょう…。次回が楽しみです ) 。
次回は p34 の " Dans la Recherche du temps perdu ", oeuvre d'un certain Marcel, autre concierge notoire Legrandun...からです。
© " L'élégance du hérisson ", Muriel Barbery , Editions Gallimard
2024年2月27日
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今週は第 6 課の " S'accepter tel(le) qu'on est ありのままの自分を受け入れる " という ( 深い ) タイトルです。
記者が、初老の俳優にインタービューしています。
失礼でなければと前置きをして記者はたずねます。「最近、髪の毛を染めるのをやめられましたね。考えたうえでの決断ですか " Depuis quelque temps, vous ne vous teignez plus les cheveux. C'est délibéré ? " 」と。俳優さんは答えて曰く、「つねに若く見せなければならないことに疲れはじめて… " ...parce que je commençais à être fatigué de devoir constamment me montrer jeune " 」。
「職種によっては、すらりと痩せているのが良いという有無を言わせぬ社会の圧力もありました "...il y a eu un diktat de la minceur dans l'ensemble de la société " 、でもそうした流れにあらがって、自分のありのままの姿を受け入れようという考えもではじめています "...on voit de plus en plus d'acteurs... qui essayent de résister à cette manière de penser " 」とも。
俳優さんの結語は...「大切なのは、自分のありのままの身体を受け入れて、自分が一番、素直でいられること " Le plus important...c'est de s'accepter tel qu'on est, d'être bien dans sa peau (1), dans son corps. " 」 。まさしく…。
註 (1) : être bien dans sa peau は、 「気持ちが落ち着いている、なじんでいる」など の意です。
© T'en penses quoi ? Editions Asahi
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今週は『影泥棒 Le voleur d'ombres 』です。
前回は、「僕」が屋根裏部屋にあがって、影と対決するくだりでした。「僕」の足元にある影が、自分のものではないことは気付いているのですが、それを確かめたくて、「僕」は満月の夜にお母さんがテレビを見ている間に、月明かりに照らされた影と対峙しました。そして思いきって「君は僕の影じゃない。マルケスの影だろ」と問いつめます。すると影はそれを認め、いかにマルケスの影でいることがつらかったかを訴えるのでした。* * * * *
" マルケスの影 " は、「僕」がマルケスに近づいた時にマルケスから離れることができたので、この機会をのがす手はないとばかりに「僕」の影になったのだそうです "...c'était le moment ou jamais de me faire la belle...J'ai poussé la tienne ( = mon ombre ) pour prendre sa place " 。
そのかわりに、僕自身の影はマルケスの足元についたのでした。
「僕」は自分の影がかわいそうになって、「明日にでも、自分の影を取り戻すから、君はマルケスのところに戻れ」と言いました。が " マルケスの影 " は「僕」とずっと一緒にいたいと懇願し " Je t'en prie, laisse-moi rester avec toi "、「そもそも君が学級委員に立候補したのも、ぼくが背中を押してあげたからだよ」と言うのでした。ちょうどその時、お母さんがテレビを見終わって、屋根裏の下にやってきました。大きな声でたずねます。「そこに誰かがいるの? 誰と話しているの?」と。僕はとっさに答えました。「影と話しているんだよ」。当然のことながらお母さんはあきれて「ばかなこと言ってないで、はやく寝なさい」と。 " Evidemment, elle a répliqué que je ferais mieux d'aller me coucher, au lieu de dire des âneries " 。
その夜。
「僕」は夢を見ました。お父さんと狩りに行く夢でした。動物を殺すのは嫌いですが、お父さんに会えるのがうれしくて、ついて行きました。お父さんは後姿しか見えません。手をたたいて動物を駆りだせと命じられました。でもそうしたら動物が撃たれてしまうので " Je devais progresser en tapant dans mes mains pour que les tourterelles s'envolent, alors il leur tirait de ssus " 、「僕」はわざと動物が逃げれるようにしてやりました。するとお父さんは、「僕」をぼんくら呼ばわりして怒りました。この時に、この人は僕のお父さんではなく、マルケスのお父さんなのだと気付いたのでした。夢のなかで夕ご飯も食べました。マルケスのお父さんは新聞を読み、お母さんはテレビを見ています。どちらも一言も、マルケスに声をかけません。今日は何をしたの ? 宿題はしたの ? そんな会話もありませんでした。「僕」にとってマルケスは敵ですが、マルケスがとてもかわいそうになりました " Même si Marquès était mon ennemi, j'étais triste pour lui " 。
* * * * *
朝、夢からさめると、「僕」は汗びっしょり。でも部屋はいつも通りの「僕」の部屋で、一安心。とにかく今日の天気予報が気になり、一階にかけおりて、テレビのリモコンをひろい上げたのでした。
次回は、p60の " Maman ne comprenait pas pourqoui je m'intéressais autant à la météo. " からです。© " Le voleur d'ombres ", Marc LEVY, Edition Robert Laffont