2024年9月3日
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今週は第七課。『 Anni Ernaux アニー・エルノー 』です。
アニー・エルノーは2022年のノーベル文学賞をとった作家です。フランスでのはじめての女性受賞者だそうです Annie Ernaux est ...la première Française à obtenir ce prix 。2001年に出版された『 Evènement 邦題:事件』という作品は映画化されて、2021年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したそうです 。自伝的な作品がおおく、ゆたかとは言えない家庭でのことや、父との関係、田舎町の様子などなどを赤裸々に描いていましたが、やがて個人の経験を社会の出来事として客観的にとらえて書くことを目指すようになったのだそうです Dorénavant, le but de l'auteure est d'objectiver son expérience personnelle...。
そのせいか「文学的とはいえず、筆致も平板すぎる」と批判する人もいるそうです Pour certains, l'oeuvre d'Annie Ernaux est à peine littéraire...trop plate...。ですが、アニー・エルノーのインタビューを聞きますと、「それは現実をとらえ、現実に到達するために、作者である私自身があえてえらんだ文体である」とのことでした…ふ~む。
© Hirondelle 2024 Editions Asahi
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今週は『影泥棒 Le voleur d'ombres 』です。
前回は、イヴさんが僕のところにやってきて、学校を辞めることにしたと述べたくだりでした。辞めるきっかけは「自分が子供時代のことに囚われすぎていたことに気がついたから」だそうです。イヴさんとわかれるのは淋しかったし、イヴさんもそう言ってくれたけれど、あのお母さんの手紙で、イヴさんの気持ちが吹っ切れたことに僕は満足でした。* * * * *
学校ではイヴさんの送別会がひらかれました。思っていた以上にイヴさんは人気がありました。先生や生徒のほかに、保護者も全員やってきました。 Yves était beaucoup plus populaire qu'il ne l'imaginait, tous les parents d'élèves sont venus 。
夜には、イヴさんの影が僕の部屋にやってきて、カーテンの襞のなかから「ありがとう」って言ってくれました。そして三学期の最後の日。表彰式がありました。お母さんは当直のため来れませんでした。お母さんはひどく落ち込んで、来年もあるから、と僕が慰めねばならないほどでした。
当日、僕は壇上にあがって、もしかしたらお父さんが来ているかもしれないと、かすかに期待しながら保護者の席のほうに視線を投げてみました Alors que je montais sur l'estrade, je jetai des coups d'oeil vers la tribune...en espérant y voir mon père...。お父さんの姿はありませんでした。お父さんも当直だったのかもしれません。
* * *
いよいよ 2 ヵ月間の夏休みの始まりです。僕もリュックもヴァカンスには出かけません。リュックの場合、パン屋さんを閉めるわけにいかないからです。それに 7 月の終わりには、リュックに妹ができました ! お兄さんになったリュックはまえより晴れやかです。
8 月のはじめ、お母さんは休暇をとり、車を借りて、僕を海に連れていってくれました。そこで僕はクレアという女の子と出合いました。耳が聞こえず、言葉がしゃべれませんが、それを補うかのような大きな目をした子です。その目はどんな些細なことも見逃さない目でした Cléa était sourde et muette ... Pour compenser sa surdité...ils (les yeux de Cléa ) sont immenses ...elle voit tout, aucun détail ne lui échappe 。
次回は p106 の " Ça semble assez logique. Quand elle essaie de parler...からです。
© " Le voleur d'ombres ", Marc LEVY, Edition Robert Laffont
2024年9月10日
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今週のテーマは第 8 課の『 Les voitures ne pourront bientôt plus circuler en ville ? しばらくすると車は街なかを走れなくなるのでは ? 』です。
気候変動対策として、欧州の都市部では ZFE : " Zones à faibles émissions ( 低排出ゾーン ) "と呼ばれる区域がもうけられているそうです。この区域では、排気ガスのすくない車だけ、つまり年式の新しい車や電気自動車だけが、この区域を通行できるのだそうです ..." zones à faibles émissions ", où l'accès et la cirulation sont réservés aux voitures les moins polluantes, c'est-à-dire les plus récentes et les voitures électriques 。
© The conversation
パリは 2015 年に、フランスで初めて、この低排出ゾーンを設けました Paris est la première ville à les (les zones à faibles émissions ) avoir mises en place en 2015 。今後は 2024 年末までに、人口が 15 万人以上の 40 の都市で ZFE が導入されるそうです。
ただし、空気はきれいになっても、社会的な公平性からは問題があるという議論がもちあがったようです ... les ZFE font... polémique. Si la qualité de l'air semble s'amérioler, les ZFE posent des questions de justice sociale 。新しい車に買いかえることが難しい人には、不公平な政策になってしまうからです。このため人口 50 万人の大都市 Lyon では、ZFE の適用がみおくられることになったそうです。
©ニューヨークタイムズ
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A view of the Eiffel Tower seen through thick smog
濃いスモッグに覆われたエッフェル塔
© Hirondelle 2024 Editions Asahi
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今週は、ミュエル・バルベリ Muriel Barbery の『優雅なハリネズミ L'élégance du hérisson 』です。
前回は、前々回のおさらいをしながら少し読み進みました。中学生の私が再び、「深く考えた」ことを開陳 ! するくだりです。
" 権力のある人間は口ばっかりで何もしない " と私は考えています。そう考えるようになったきっかけは、食事の招待客のとある発言でした。曰く「できる人は実践者になるけれど、できない人は教える人になり、教える人になれない人は教える人を教える。それもできなければ政治家になる」。客のこの入り組んだ言い回しに、姉のコロンブはなるほどとうなってみせます。しかし私からすると、姉のコロンブはグランゼコルにかよう英才ながら、自分の知識をつかえば、( 権 ) 力を手に入れられるし、何をしても許されると思っている不遜な人。父も同族で同罪です。
その姉たちは、あの入り組んだ言い回しを、分かったような顔をして鼻で笑っていました。しかし、あのセリフの真意は決して、" 政治家は無能だ " とか、" 能なしは日の当たる所にいる " などと言う意味ではないのです Ce que veut dire cette phrase, ce n'est pas que les incompétents ont une place au soleil 。
霊長類の私たちは、食べて寝て、子孫をのこし、征服をし、土地をまもる…そうするように仕組まれています ...nous sommes des primates programmés pour manger, dormir, nous reproduire, conquérir et sécuriser notre territoire...。でもそのことに長けた人たちは、結局だまされます。うまくしゃべれる人間にだまされるのです。
つまり究極の能力とは、言語をうまく使えることなのです
...la compétence ultime, c'est la maîtrise du langage 。ですから言葉をモノにした者は、たとえ獲物がとれなくても、子孫をのこせなくても、支配者になれるのです…。
ただし、これは私たちが本性としてもっている私たちの「野生」を冒涜することに他ならないのですが…。
…と以上、パロマが深く考えたすえにたどりついた結論でした …。- - - 第四節後半 「深い思考 No 3 」終わり - - -
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- - - 第五節 「 かなしい状況 」 - - -( 再び管理人ルネの独白です。 ) 一か月間、フッサールを読みふけりました。が、現象学はペテンであるという結論に達しました。これは、大聖堂が私にいだかせる感覚に似ています。信仰心をもたない私は大聖堂にある種の戸惑いをおぼえます。「存在していないもの」を讃えるために、人間があのような大聖堂を建てたからです。現象学というむなしい企てに、かくも多くの知識人が身を投じたことに通じるのではないでしょうか。
次回は p64 の " Comme nous sommes en novembre, je n'ai héras pas de mirabelles...からです。
© " L'élégance du hérisson ", Muriel Barbery , Editions Gallimard
2024年9月17日
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今週も第 8 課。「低排出ゾーン ZFE ( = Zones à Faibles Émissions )」がテーマです。
「低排出ゾーン」というのは、排出ガスが少ない車だけが通行を許可される区域をさすのだそうです。今回は、このテーマをあつかった子供新聞を読んでみました。こちらとこちらで読むことができます。低排出ゾーン ZFE を走る車は、フロントガラスにステッカーを貼っておかなければいけません ...pour circuler dans certaines grandes villes, les voitures doivent avoir une vignette 。このステッカーの名前は Crit'air 。critère (= 規準 ) という単語をもじって、さらに air (= 空気 ) と組み合わせた呼び名です。
ステッカーには、1 ~ 5 までの数字のついたものと、数字のない緑色のものとがあります。緑のステッカーは電気自動車や水素自動車用 La vignette verte, sans chiffre, n'est donnée qu'aux voitures électriques ou à hydrogène 。排出ガスの汚染度が低ければ 1 のステッカー。高ければその程度に応じて 2 ~ 5 のステッカーになるのだそうです。ステッカーをもらえない車もあります。
ステッカーがない、あるいは 4 、5 の車が ZFE に入ると、68 ユーロの罰金が課せられるそうです ! ...un conducteur qui circule sans avoir la bonne vignette peut recevoir une amende de 68 euros !!
© Hirondelle 2024 Editions Asahi
© 2024 Milan Presse
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今週は『影泥棒 Le voleur d'ombres 』です。
前回は、用務員のイヴさんが学校を去ったくだりでした。それは、イブさんが幼いころへのこだわりをすてて、新しい道を歩む、ということでもありました。そして夏休みが始まりました。お母さんが 10 日間の休暇をとることができたので、知り合いから車を借りて海辺の村にきました。そこで僕はクレアと出合いました。クレアは耳が聞こえず、しゃべることができません。でもそれを補うに十分な大きな目をした子でした。* * * * *
本当のところ僕は最初、耳の聞こえないクレアが、言葉にならない声を出すのが怖いと思いました。でも彼女が笑うのを聞いたら、その声はまるでチェロの音のように聞こえるのでした。クレアは色々なことを知っています。手をつかって詩も " 朗読 " します。僕も「いいえ」という手話をおぼえました ...J'ai tout de suite appris comment on dit " non " en langage des signes ... 。
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僕は海辺で、絵ハガキを買い、お父さんに手紙を書きはじめました。でもいざ住所をかこうと思ったら、ペンがピタリと止まってしまいました。お父さんがどこに住んでいるかを僕は知らなかったのです。ショックでした...au moment de remplir les lignes à droite, mon crayon est resté suspendu dans le vide, ...je ne savais pas où l'adresser 。目の前ではカモメたちが飛びかい、急降下をしては魚をとっています。お父さんと魚釣りにいったときの光景が思い出されました。
* * *
ある晴れた日の朝のことでした。僕はクレアと港を散歩していました。僕たちの影が突堤に映っていましたが、クレアが僕に近づいたので、二人の影が重なりそうになりました。僕はあわてて、後ずさりをしました。クレアはボクのこの動作が理解できず、ながいあいだ悲しそうな目で僕を見つめていましたが、やがて走って帰って行ってしまいました Cléa n'a pas compris ma réaction. Elle m'a regardé longuement, j'ai vu du chagrin dans ses yeux, puis elle est partie en courant " 。僕は一生懸命、クレアを呼びとめましたが、振り向くはずもありませんでした。
僕が後ずさりしたのは、クレアの影を奪ってしまうことを怖れたからです。クレアが手話で僕に語ってくれること以外、僕はなにも知りたくなかったからです Je ne voulais rien savoir d'elle qu'elle n'ait voulu me dire avec ses mains 。でもクレアにそんなことがわかるはずもありません。僕の動作がクレアを悲しませてしまいました。夜、僕は、どうしたら仲直りできるか、ずっと考え続けました。そしてクレアに理解してもらうには、本当のことを言うしかないと思うようになりました。
次回は p109 の " Le lendemain, le ciel était couvert. ...からです。
© " Le voleur d'ombres ", Marc LEVY, Edition Robert Laffont