2023年6月6日
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今週も前回につづいてカフェをめぐるテキストを読みました。ルーヴル美術館のこちらのサイトで読むことができます。( 今週もちょっと厳しい内容になりました… m(__)m )
2022年、ルーヴル美術館は、17・18世紀の美しいコーヒーセットや砂糖入れなどを展示しました。ルイ14世・15世時代のロカイユ様式のテーブルセッティングなど華やかなものが並んでいました。が、ルーヴル美術館は来館者にむけてこう呼びかけています。"...le Louvre invite ses visiteurs à s'interroger sur la manière dont ses collections témoignent de l'esclavagisme... ( 来館者の皆さんには、これらのコレクションから奴隷制度をどう読み取ることができるか考えていただきたいと思います ) "。
15世紀半ば以降、大西洋をかこむ大陸のあいだで、奴隷貿易がおこなわれました。800万とも1000万ともいわれる人が連れ去られ、売買され、残酷な扱いのなか使役させられました。これは300年以上つづいた巨大な貿易システムで、西欧社会の根幹を形成しました。
ある砂糖入れは、奴隷がサトウキビの束を背負っている姿を模しています。美しい金細工ですが、テキストはとても厳しい指摘をしています。" La réalité brutale de l'esclavage paraît bien loin de la frivolité des tables dites "rocailles" du 18e siècle, qui ne semblent voir que de l'exotisme dans ce type de motif ( 奴隷制度の残酷な現実は、18世紀のロカイユ様式のはなやかな食卓とはあまりにかけ離れています。( 食卓に並ぶ ) こうしたデザインは、当時の裕福な人にとってエキゾティズムとしか映らなかったのでしょう。) "
先週読んだ、「プロコップ」には、啓蒙思想家が集まっており、奴隷制を批判したそうです。しかし制度を廃止するまでにはいたりませんでした。完全に廃止されたのは、ずっとのちの1848年でした。
© A la page 2023, Editions Asahi
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今週は " Zazie dans le métro "です。
前回は、ペドロ・スュルプリュス ( 別名 トルウスカイオンもしくはベルタン・ポワレとも ) なる男が、マルスリーヌのアパルトマンにしのび込んできた場面でした。
マルスリーヌは、夜一人で留守番をしていたのでしが、いかがわしい男の侵入にもあわてることなく、ていねい且つ適当(?)にあしらって、男の気づかぬ間に窓からそろりと抜け出てしまっていたのでした。* * * *
さて場面は変わり、マルスリーヌに逃げられてしまったトルスカイオンですが、再び巡査の制服を着て、ガブリエルのいるモン・ドゥ・ピエテにほど近い広場にやってきました。浮浪者達が、暖かい風が吹きあげてくる地下鉄の通気口のそばで眠っています。それを見なから、どうしたことか、がらにもなく人の世の無常に思いを馳せます。そして路上に横たわる男たちを見ながら、彼らが寄る辺のない身ではあるとはいえ、世間のしがらみやら、しきたりやらから自由であるように思え、いくばくかの羨ましさを感じていたのでした "...il se prit à envier...le sort de ces déshérités, déshérités peut-être mais libérés du poids des servitudes sociales et des conventions mondaines... " 。
そんな折りどこからか、声が聞こえてきました。ナンダ、ナンダ、ナンダ Kèss kèss kèss (原文ママ) と、辺りをさぐれば、ベンチに一人の男が・・・。トルウスカイオンは男に近より「ここで何をしているのかね。しかもこんなおそい時間に」とたずねます。が、男は答えます。「そんなこと、あなたに関係あるんですか?」。 実はマルスリーヌに逃げられて少々弱気になっているせいか、トルウスカイオン自身も、男の言うとおりだと思っていたのでした。「私に関係あるだろうか ? 」と。
しかしトルウスカイオンは巡査の服を着ている都合上、「関係あるんです」と返答。「ですからさっきした質問をもう一度させてもらいますよ」とつけ加えますが、文法にからっきし弱いトルウスカイオンは、またも動詞の活用を間違え、相手の男になおされる始末。結局、何をしようとしといたのかを忘れ、逆に男から質問するよう促されることに。
しかし一端そうとなると、トルスカイオンの口からは、まるで堰をきったように質問がとびだします。氏名は? 生年月日は ? 出生地は ? 保険証番号は?・・・。しまいには、領収書は、定期券は、鍵束は、などとどうでもよいことまで尋ねてくるので、男はトルウスカイオンにむかって、駐車してある観光バスを指して告げます。「巡査さん、あれ私の車です。運転手なんです」と。そして「私のことがわかりません ? 」とも。トルウスカイオンは少し気が抜けたのか、「いや、ちょっと規則違反だったんで」などと意味不明なことを言いながら、男の横に腰掛けます。そしてしばしの沈黙。やがてトルスカイオンが切り出します。「実は…今日は、はめをはずしすぎてしまって…」と。
次回は、p210 の " --- Pépins ? --- Noyaux. (silence)..." からです。
© "Zazie dans le métro ", Raymond Queneau, Folio
2023年6月13日
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今回は第8課『フランスにおける漫画 Les mangas en France 』です。
テキストによりますと、世界の漫画市場はフランスが第二位を占めているそうですが " La France est le deuxième marché du manga au monde " 、このように漫画がフランスで広まったおおもとは、まずはテレビアニメだったそうです。1970年代、さまざまなアニメが放映されます。暴力的なシーンなどが批判の対象になることも多かったのですが、若者の間でのアニメ人気は衰えることがありませんでした。これをうけてフランスの出版社は『 AKIRA 』 や『 Dr.スランプ 』等々の漫画の翻訳と出版に踏み切ったのでした " Alors, des maisons d'édition françaises décident de traduire et de publier des mangas japonais : AKIRA, Dr.Slump... "。
それでも 1990年代は、アニメや漫画に対する世論は、大好きな人と白眼視する人とに二分されていたそうです "...dans les années 1990, en France, les animes ( = animés ) et les mangas clivent :certains les méprisent, d'autres les adorent " 。潮目が変わるのは、1999年のジャパンエクスポの開始あたりからのようです。ジブリの作品は、アニメ愛好家のすそ野を広げます。
ところで、ラップ音楽は当初、暴力的で俗悪、低劣とみなされていそうですが " la majoritédes des Français trouvaient le rap violent, vulgaire, médiocre "、今では高く評価されています。実は、アニメや漫画の受け入れられ方も、このラップ音楽の受容と重ねられることがあるのだそうです。
© A la page 2023, Editions Asahi
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前回は、ダニエルが苦労の末に帽子をとり戻し、自分へのご褒美(?)として、ベネチアに家族でやってきたところまででした。
ダニエルと妻のヴェロニックそして息子のジェロームの三人は、ゴンドラに揺られ、カッレ・ヴァラレッソの路地をぬけて、コッレール博物館でカルパッチョの絵を愛でる・・・そんな時を過ごしていました。そしてサン・マルコ広場のカフェ・フロリアンで一息しようと広場を横切ると、ヴェロニックがひじでダニエルをつつきます。「見て、あそこ」。
なんとミッテラン大統領が、二人の女性と共にサン・マルコ広場を歩いているではありませんか。誰もが足をとめます。大統領にほほえみかけた人もいました。大統領は軽く会釈をかえします。そしてヴェツキエ公会堂の方へと去っていきました。
大統領はダニエルから数メートルのところを通り過ぎていきました。思わず帽子に手をやるダニエル。大統領は、帽子をかぶっていません。たまたまなのでしょうが、ダニエルにはひっかかりました。大統領の世界に知られているシルエットからすると、なにかが欠けているように思えたからでした。自分が大統領の帽子を奪ってしまったせいだと、今更ながら、忸怩たる思いをいだくのでした。
* * * *
そして午後。ダニエルたちは、コンタリーニ宮殿のボヴォロを訪れます。この螺旋の階段は10年前の新婚旅行でも訪れました。ヴェロニックが突如、思いおこします。「あの小さな馬・・・」。当時、ムラーノ島にたち寄った新婚ほやほやの二人は、ガラス職人から小さな馬をもらったのでした。そして次に訪れたボヴォロで、その馬を記念にと、屋根の梁にそっと置いていったのでした。10 年経った今も、それがあるでしょうか…。ダニエルは、その梁を見上げます。
次回は p176 "Il retira son chapeau, le posa sur la rambarde de pierre et tendit la main " からです。
2023年6月20日
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今週も第8課の『フランスにおける漫画 Les mangas en France 』の続きです。こちらの子供新聞のテキスト等々を読んでみました。
フランスの漫画はバンド・デシネと言いますが、厚表紙で左から右にページを繰っていきます。ところがフランス語版の日本漫画 manga は、表紙はうすく、右から左へと読み進んでいきます "Un manga ça se lit à l'envers !... de droite à gauche "。フランスの人は最初は奇妙に感じるのだそうですが、すぐに慣れるとか " C'est bizarre au début, puis on s'habitue " 。
絵には動きがあって、大きく描かれる人物がいるかと思えば、極端に小さく描写される人物も同時にいたり、時には絵がコマからはみ出していたり "...des personnages...peuvent même sortir des cases " …。擬音語がたくさん使われるのも manga の大きな特徴で、運動靴で走っているときの音や、そばを食べているときのすする音、微笑んでいるときでさえ、音で表現されますから、これをフランス語に訳すのは一苦労 ! とのことでした。
ちなみにフランス語版のmanga の場合、ヒタヒタと走るなら" Plof Plof "、 ズルズルとそばを流し込むのは" ズZU ズZU "、ニコニコはそのまま" ニコニコ " としか書きようがないようです ヨ 。
© A la page 2023, Editions Asahi
© 2023 Milan Presse - 上級
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今週は " Zazie dans le métro "です。
前回は、トルウスカイオンが「実は、はめをはずしてしまって」と、自分の失態に意気消沈しているところまででした。
「打ちあけたいことが、喉元まで出かかっている」と、神妙なトルウスカイオンです。再び沈黙がおとずれるなか、シュールな世界が展開。一匹の蚊が夜の街灯に誘われてやってきます。あたたまろうとしたのしたのでしょう。望みがかなって(?)黒こげになってアスファルトに落ちていきました…。
トルウスカイオンは、かたわらに坐っているフェドロ・バラノヴィッチにうながされて、自分について語りはじめます。
「子供のころのことも、青春時代のことも話しますまい…" Je ne vous dirai rien de mon enfance ni de ma jeunesse. "。教育さえまともに受けてませんから。あげくは今日のこの日までこのとおり独身のまま…」。しばし遠くを見つめるトルウスカイオンですが、「まったくうまくいかないんです。それもこれも皆、あの女のせい。女はガブリエルのダンスを見たがって…」と続けます。(ここでトルウスカイオンは再び動詞の活用をまちがえ、バラノヴィッチになおされますが、それはさておき・・・)
トルスカイオンがガブリエルの名前を出したので、バラノヴィッチが、ガブリエルをたたえはじめます。「私は夜のパリをはよく知っているが、ガブリエルほどの踊り手はいない "...j'en connais un bout sur le bâille-naït (原文ママ) de cette cité... Y a rien de comparable au numéro de Gabriel sur la place de Paris"。ただ十八番が決まっていて、変わりばえがしないから少々見飽きたけれど、しかしそれはそれで、十八番を極めたからであって、それこそガブリエルが真の芸術家たる所以」と。
トルウスカイオンが「私は十八番をいろいろ変えますよ」と口をはさむと、「それはまだあんたが、会得したものをもっていないからだ。自分の今のぶざまな様を見てみなさい " Y a qu'à vous regarder : vous avez l'air d'un minable " 」とバラノヴィッチに諭されます。「巡査の服を着てもブザマ ?」と言い返しても、「なってないね」とつき放され、しゅんとするトルウスカイオン。
そこへちょうど、モン・ドゥ・ピエテでの宴が終わったとみえて、ガブリエルやらザジやら観光客やらが店から出てきます。「やれやれ、やっとだ " Pas trop tôt, dit Fédor Balanovitch " 」バラノヴィッチは観光バスの運転席に向かいます。男性客はためらっていますが、女性客たちはガブリエルにキッスをおくり、それぞれのお国ことばでガブリエルをたたえます。オウムのラヴェデュールはかごの中でぐっすり。ザジは健気にも眠気とたたかっているところでした。
次回は、p214 の " Alors, mon coquin, dit la veuve Mouaque en voyant arriver Trouscaillon, ..." からです。
© "Zazie dans le métro ", Raymond Queneau, Folio
2023年6月27日
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今回は第9課。『トランス・アイデンティティ La transidentié 』がテーマです。近年、L G B T という言い方をよく聞くようになりましたが、「トランス」は L G B T のうちの T にあたります。L G B T は、 L( esbian レズビアン ), G ( ay ゲイ ), B ( isexual バイセクシュアル ), T ( ransgender トランスジェンダー ) の略です。
出生証明書やパスポート、そういった書類には、性別を記入する欄があります。男か女か…、記入した内容によって、その人の公での性が決まります " C'est cette mention qui détermine la façon dont chaque personne est officiellement identifiée. 。多くの人はその性別表記になんら疑問をもちません ( ちなみにそのような人を cisgenre と言うそうです ヨ 。transgenre と対の語です )
しかしその男女表記が自分の思っているのとは違うと考える人もいます。つまりトランス・アイデンティティです。身体の性と心の性が一致しないのです。ですから、そのために生きづらさを感じています ( 再びちなみにですが、この生きづらさは la dysphorie と言うそうです。euphorie の反対です )。
「ここでは自分でいられる」
というLGBt教育のためのポスター近年では、トランス・ジェンダーの人がメディアに登場することが増えてきました。それでもなお、まだまだトランス・ジェンダーについて知らない人、理解していない人が多いと言います " Cependant cette notion ( = la transidentié ) est encore mal connue, et mal comprise par beaucoup de monde " 。ですので、心無い対応をされたり、差別されたりすることも日常茶飯事と言います。フランスではスカートをはいて登校しようとした高校生が、学校に受け入れてもらえず、自殺するという痛ましい事件がありました。これをきっかけにトランス・アイデンティティにかかわる教育を広めていくことや制度を変えていくことが求められているのだそうです。
© A la page 2023, Editions Asahi
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今週は " le Chapeau de Mitterrand " です。前回は、ダニエル一家が 12 年ぶりにベネチアを訪れた場面でした。その 12 年前の訪問のときに、ダニエルとヴェロニックはボヴォロ塔の屋根にかかる梁に、記念にとガラスの小さな馬を置いていったのでした。その馬は今もあるのでしょうか…。
ダニエルは梁を見上げ、帽子をぬいでとりあえず欄干におき、手をうんとのばして梁のうえをまさぐります。小銭やら紙の切れはしやら・・・他の観光客がおいていった小物につづいて、やがて滑らかでひんやりしたものに触れます。少しひっぱって取り出してみれば、まさしく 12 年前のあのガラスの馬。
息子のジェロームが近寄ってきて馬を見あげます。ヴェロニックの目には涙が…。ダニエルは感無量のヴェロニックの肩をだきます。と、その時、風が舞いあがり、ヴェロニックの髪がダニエルの顔をなでます。一瞬でしたが、目を閉じ、再び開ければ、欄干にあったはずの帽子がありません。
またも悪夢です。ダニエルはボヴォロ塔の階段を脱兎のごとくかけおります。帽子は見あたりません。周囲の路地にもあたりましたが、見つかりません。怒りと不安とで、ダニエルの神経は破裂せんばかりでした。そんな時、ステッキをもち二人の女性にともなわれた老人があらわれました。
手には黒い帽子をもっています。ダニエルは駆けより、私のです!と叫びます。老人はイタリア語訛りで「御心配なく。帽子の中に言葉を添えてありましたね。私も同じことしていますから」と述べて、ダニエルに帽子を渡します。よい一日を、と老人はにこやかに去っていきました。
" 帽子の中の言葉って?" ダニエルは帽子の内側の革帯に指を入れてみました。小さな紙がでてきて広げてみれば、電話番号と「お礼をします。ありがとう」の言葉が記されていました。
* * * *
夜、ホテルで食事を終えたダニエルは、一人で夜の空気をすいにでかけます。運河にかかる橋の上で、帽子を手に入れてからの日々を思いおこしています。橋の下をボートがとおり、その灯りでダニエルの姿が建物に映しだされました。ダニエル自身の影であることはわかっているのですが、ダニエルにはその巨大な影が、ダニエルの正面に立つミッテラン大統領の影に思えてくるのでした…。
決心はつきました。
ホテルの部屋に戻ったダニエルは、「明日、電話することにした」とヴェロニックに伝えます。* * * *
「折り返しこちらからお電話いたします」。そう言われて受話器をおき、待つこと15分。ホテルの部屋の電話が鳴ります。受話器のむこうにいるのは、エリゼ宮執務室の人。まことに慇懃です。その人に向かってダニエルは、ダニエル自身の手でミッテラン大統領に帽子をお返したいと伝えます。すると「帽子の所有者の方もそのようにお考えです。カフェ・フロリアンに17時に。入って右の最初の部屋でお待ちしております」との返事が返ってきました。
次回は p181 "A 16h 40. Daniel coiffa pour la dernière fois le chapeau de Mitterrand, embrassa Véronique et Jérôme,... " からです。